3年前
「そういえば俺さ、ポン酢が好きなんだよ」
いつものから揚げ定食を前にして、同僚が突然しゃべりだした。
コロナ禍でしばらく途切れることもあったが、昼食は職場の近くの定食屋で食べることが多い。この定食屋には週に一回は通っており、から揚げ定食か日替わり定食か、そのどちらかを飽きもせず注文し続けているのだ。
「はい、から揚げ定食お持ちしました~」
から揚げ定食が運ばれてきてテーブルに並べられる。白米と、ワカメと豆腐の味噌汁、大皿にはから揚げがキャベツの千切りを従えて並んでいて、小皿にはひじきが盛られている。そしてもう一つの小皿。こちらにはマヨネーズが入っている。
「前言ってたよな、お前? マヨネーズが好きだ、から揚げにはマヨネーズだ、マヨネーズの原料が卵なんだから鶏肉と合う、衣の味付けが甘じょっぱいからポン酢だと辛すぎるだの何だの、さり気にポン酢ディスしてたけどさあ……」
「いや、から揚げ定食頼むときはいつもマヨネーズ選ぶけど、原料が卵とかそんなん言ったことあったっけ? というかポン酢選んでる印象ないなあ…… いつも二人ともマヨネーズ頼んでない?」
この店ではから揚げ定食を頼むとき、調味料としてマヨネーズかポン酢を選ぶことができるのだ。コロナが流行する前からマヨネーズを選び続けた記憶しかないし、味についてはいつもテキトーなことしか言った覚えがない。
「いや前言ってたよ、3年前。まあこの3年間俺もマヨネーズを頼んでいるけどさ、実際、本当のところ、ポン酢が好きなんだよ。というか、ポン酢が衣の味付けとかぶるとかディスられてちょっと癪にさわったというかさ、それなくない?っていうかさ」
3年前? ポン酢ディス? 腹が減りすぎたのか?
「そうだったっけ? 本当はピリ辛のタレがあるといいんだけどな。マヨネーズも悪くないけどさっぱりしないし、やっぱ辛いのが好きなんだよ」
「いやまあ俺もピリ辛好きだけどな」
……これは3年後にマヨネーズをディスったと言いがかりを付けられそうだ。