あらかたひとりのブログ

のんびりひとり暮らししています。

哲学者カント(3)

俺の名は不動一者。 謎の男にサロンに連れられ巻き毛になってしまったが、髪の毛がどうなろうと哲学はできる。 今日は休日、人もまばらなカフェでお茶を片手に外を見ていると、隣の席の、黒ずくめの男たちの会話が耳に入ってくる。 ……んん? 今ちらっとだが…

Eyes On

地球から0.16AU、つまり地球-太陽間平均距離の0.16倍の距離、地球-月間平均距離の62倍はあろうかという距離に、隕石が浮かんでいる。 その形はいびつだがおよそ直径50m、太陽の周りを271日でひとまわりしている。太陽に対する速度は24km/s、新幹線のおよそ28…

あるいは牡蠣でいっぱいの海

男が逮捕された。 その容疑は「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」だ。 この法律は遺伝子組換え生物等を使用等する際の規制措置を講じることで、生物多様性への悪影響の未然防止を図るものであり、具体的に言えば、遺…

わかったコピペ

わかったわかったわかった。もうわかった。 だからもうわかったって。 もういいからもうわかったから。 お前の言いたい事も言ってる事もわかったから。 全部わかった。全部。すごいわかった。ものすごくわかった。 お前の氏名と生年月日と住所と電話番号と勤…

哲学者カント(2)

俺の名は不動一者。 謎の男にサロンに連れられ巻き毛になってしまったが、髪の毛がどうなろうと哲学はできる。 今日は休日、人もまばらなカフェでお茶を片手にふと外を見ると、黒ずくめの男たちが白い粉の入った小さな袋を手渡ししている。これは事件の香り…

哲学者カント(1)

俺は高校生哲学者、不動一者。 幼馴染と遊園地へ遊びに行って、髭の生えた男の怪しげな口頭弁論を目撃した。 口頭弁論を見るのに夢中になっていた俺は、背後から近づいてくるもう一人の仲間に気づかなかった。 俺はその男にサロンに連れられ、目が覚めたら………

3年前

「そういえば俺さ、ポン酢が好きなんだよ」 いつものから揚げ定食を前にして、同僚が突然しゃべりだした。 コロナ禍でしばらく途切れることもあったが、昼食は職場の近くの定食屋で食べることが多い。この定食屋には週に一回は通っており、から揚げ定食か日…

無からの創造、無限ループ

最近、某サイトの会員資格が消された。 オンラインで映画を観ることができたり、年に何回かあるセール時には商品の値引きがあるような、そんなサイトの会員資格だ。メールで資格情報に関する注意事項が来ていたような覚えがあるが、放置していたら消されたよ…

眼鏡曇る

眼鏡が曇っている人を見かけないだろうか。 今まで冬場には電車内でよく見かけたし、マスクを着用するようになってからは屋外でも見かけるようになったが、それとは別の話だ。 初夏に差し掛かろうかという少し風の強い日、電車で目の前に座っていた若者の眼…

世界三大あやかしの手

ようやく手に入れた。 世界三大あやかしの手。 まずは世にも有名な「猿の手」。 手にしたものの願いをいびつな形で叶えるという。 よく知られている例は大金を得ることができる代わりに親しい人を亡くしてしまうといった残酷なものだが、髪が欲しいという願…

概念の創造

猫を去勢した。 猫は去勢されることでマーキング行為や攻撃的行動、メスを求めての行動がなくなるため、人と一緒に過ごしやすくなり、怪我や病気のリスクも減らせるという。(ただ太りやすくなるらしい。) 手術が終わった猫を連れて帰ると、心持ち寂しそう…

迷いクジラ

遅刻した? 目を覚ました時の違和感ですうっと血の気が引く。 カーテンからこぼれる朝の陽が、六畳間にこもる環境音が、いつもと違うと呼びかける。 うるさい。 スマホを指でなぞる。アラームが鳴っていたから思わず消した。 時間を見るといつもの時間でとに…

あわててとりだすよ、雨に

あわててとりだすよ、雨に これは可愛らしい絵につけられた文だ。 雨降る中、洋服を着たハムスターが右手を掲げて傘をぱっと開いている、そんな場面。(傘はカラフルな色をしたお菓子で、この後溶けてしまうのだが……) 私は文だけを担当している絵本作家であ…

無限

無限という概念が初めて示されたのは、紀元前6世紀、アナトリア半島西岸ミレトスに住むアナクシマンドロスによるとされている。 アナクシマンドロスはどのようにして無限という概念にたどり着いたのだろうか。 近年エジプトの古代都市オクシリンコスで発見さ…

健康な生活

「07:00 起床です」 「バイタルデータチェック開始」 …… 体温:36.5℃ 心拍数:81/分 心電計:正常 呼吸数:17/分 血圧:106/66mmHg …… 血中酸素飽和度:98% 血中アルコール濃度:0.00% 総蛋白:6.7g/dl 総ビリルビン:0.8mg/dl アルブミン:4.0g/dl A/G:1.7…

猫の毛をとかす

猫を飼い始めてふとある思いがよぎった。 それは、猫の毛は無限に生えてくるのではないかという思いだ。 もちろん実際そんなことはなく、毛をとかして取れるのはつまめる程度の量で、カーペットやソファについた毛もまた、ローラーでガチャガチャと巻き取る…

行き届いた管理

「人類の悲願が今、果たされようとしている。」 博士は助手を前にして厳かに語り始める。助手はこの3年間、博士と共にこの研究に取り組んでいたが、その役割は博士の独り言を聞くことであり、研究内容についてはさっぱりわからない。ただいつも通り、博士の…

春の嵐

騒々しい音が鳴りやまない。 窓の外は暗く、いつもの明るく目を細めなければ見通せない景色が懐かしい。何やら上から細いものが落ちてきて、地面をはたいて瞬かせている。 幸い部屋の中はいつもと変わらない。 同居人がいなければこの部屋は静かなものだ。時…

アリとキリギリス

煌々と輝く太陽を背に受け、アリたちは今日も働いている。 季節は夏、海は見えなくても、時々そよぐ風がその存在を伝えてくる。 冬はまだ遠いけれど、アリたちは食料をその日に備えるために働き続ける。 風に陽気な音が混じる。 キリギリスが弾くバイオリン…

金の斧

ある日、きこりが斧を川に落としてしまい、拾い上げることもできず嘆いていた。するとヘルメスが現れて川に潜り、金の斧を拾ってきてきこりにこう尋ねた。「お前が落としたのはこの金の斧か?」 きこりは考えた: A) 彼はヘルメスである。私が落とした斧が…

ガチョウと黄金の卵

ある日、農夫は飼っているガチョウが黄金の卵を産んでいるのを見つけて驚いた。そのガチョウは翌日また1個、黄金の卵を産んでいた。黄金の卵は他社にも認識でき、適正な値段で売ることもできた。夢である様子はない。可能性はいくつかある、と農夫は考えた:…

おつかい

家に帰ってくると、2,194日経っていた。 2,194日だから、ええと、365で割って、約6年経っていたというらしい。 ちょっと郊外に散歩がてら砂を取ってきてという、思えば不可思議なおつかいを頼まれてさていいよと返事をすると、やれ家の周りを回れだの、郊外…

閉じられた社会とその敵

なぜ開かれることが是とされているのか。 自由、そして民主主義が擁護されているのか。 自由であることは個人の欲求の追及を最大化することを正当化し、民主主義であることは個人にその権利を与えることに近しい。 個人の欲求の追及が小麦を、食用肉を、木材…

神の苦悩

その昔、神はただのんびりと過ごしていればよかった。 人は自らの力が及ばない事象に畏怖を感じ、また自らの願いが現実に何かをもたらすと信じ、そこに神を見ていた。 時代が下ると、神は大地を生み出したり、よくわからない冥府を治めたり、雷を武器にした…

マナー講師に関する物語の導入

ヒトは論理的合理性のみにあらず。 例えば有毒なガスが蔓延する場所、あるいは藪から忍び寄る獣、武器を持った者同士の優劣をめぐる争い。 これらに対処するために何人か送り込み有毒なガスの範囲を測ったり、藪から獣が出てくるまで待って自らの目で確かめ…

お尋ね

車内のみなさまにお尋ねします。 5号車の進行方向後方にボストンバッグを置かれた方は、バッグの移動をお願いいたします。 ボストンバッグです。アメリカではクラブ・バッグと呼ばれているそうです。 桑茶色というか、日塗工でいう17-50Lというかそんな色の…

肩の上のオウム

星新一をご存じでしょうか。そして彼の書いた「肩の上の秘書」というショートストーリーをご存じでしょうか。 うろ覚えでそのストーリーを紹介させて頂きますが、さてその話の中で人々はみなオウムを肩に乗せて生活をしており、そのオウムは飼い主が呟いた直…

衛生観念に関するある予言

西暦2020年、SARS-CoV-2(※1)による感染症が、当時グローバル化(※2)の極大にあった世界を覆った。 この感染症は感染者に高熱や臭覚・味覚の喪失をもたらし、そのせきや呼気によって感染を広げたが、ことに問題となったのは病原体保持者が無症状である、あ…

国勢調査

さて現代日本で5年毎に実施されている国勢調査についてであるが、この近代的な起源が日本にあるということはあまり知られていない事実である。 国勢調査とはそもそも「国勢」とある通り、国がなければその必要性もなかった。集落のお互いがお互いを知ってい…