猫の毛をとかす
猫を飼い始めてふとある思いがよぎった。
それは、猫の毛は無限に生えてくるのではないかという思いだ。
もちろん実際そんなことはなく、毛をとかして取れるのはつまめる程度の量で、カーペットやソファについた毛もまた、ローラーでガチャガチャと巻き取ると片手に収まる程度なのだ。ただこうやって毎日毎日取れることが、何か不思議な心もちにさせるのだ。
そして今日も猫の毛をとかす。
ある日、仕事が遅れていつもよりだいぶ遅れて帰宅した。
猫はお腹を空かせているだろうなあ、トイレ掃除早くしてあげないとな、と思いつつ鍵を回して扉を開けると足元で影がさーっと通り抜けた。
猫かと思いハッとするが、照らされた影はただ散っていく。 ……毛だ、大量の毛が散っている。すぐ家の中に入ると、中は猫の毛がまるで雲海のように広がっている。
「なんだこれ?」
抱えた荷物を下ろしかねていると雲海に波が立ち、足元に波紋が起きる。
ゴロゴロとのどを鳴らして猫がすりよる。
そうか。
いつもの時間に毛をとかしてあげないと、こんなになるのか。
猫は後ろ足で立ち上がり、荷物にじゃれつく。