無限
無限という概念が初めて示されたのは、紀元前6世紀、アナトリア半島西岸ミレトスに住むアナクシマンドロスによるとされている。
アナクシマンドロスはどのようにして無限という概念にたどり着いたのだろうか。
近年エジプトの古代都市オクシリンコスで発見されたパピルス紙には、アナクシマンドロスについて次のような逸話が記されていたという。
ある日、アナクシマンドロスはエジプト人が「猫」をあがめているという話を耳にした。彼は「猫」を知らなかったが、どうやら四本足の動物であるとのこと。二本足に神性を感じることも理性にもとることであるが、果たしてエジプト人は四本足で歩くものを神聖視するのかと、何たる馬鹿げた民よと諦めにも近い思いを抱いたという。しかし「猫」が人間とともに船に乗っているという話を聞くと、彼はその姿をひとめ見てやろうとその好奇心もあらわに港に顔を出すようになった。
そして「猫」を見た。
アナクシマンドロスの差し出したパンの香りをかぐものの、お気に召さずに興味をなくしてしまう様。手を差し出すとすんすんと匂いを確かめる様。日陰にごろんと横になり、体をくねらせて腹を見せる様。
この感情は、この愛らしさは、この愛らしさの程度は何事か。言い表せないこの感覚、かのトロス山脈をも超える果てなき天へといざなわれる心持ちは。際限なく制限なく広がる気持ち ……宇宙? そうだ、これを無限と名付けよう、この可愛さは無限と名付けられるのがふさわしい。
そして翌日、すっかり落ち着いて無限について記したという。