迷いクジラ
遅刻した?
目を覚ました時の違和感ですうっと血の気が引く。
カーテンからこぼれる朝の陽が、六畳間にこもる環境音が、いつもと違うと呼びかける。
うるさい。
スマホを指でなぞる。アラームが鳴っていたから思わず消した。
時間を見るといつもの時間でとにかくほっとする。遅刻じゃない。
あれ、狭い?
天井はいつもより低く、白い帆を垂らしたようだ。
おい、なんだこれは! 白い布のようなものがゆっくり膨らんだり縮んだりしている…… 誰かがやったのか? 誰かが侵入したのか? 今もいるのか?
ぞっとして部屋の隅に転がり、背を壁につけてあたりをうかがう。
布が垂れ下がり、黒い面が下りてくる。
そこで目が合った。