春の嵐
騒々しい音が鳴りやまない。
窓の外は暗く、いつもの明るく目を細めなければ見通せない景色が懐かしい。何やら上から細いものが落ちてきて、地面をはたいて瞬かせている。
幸い部屋の中はいつもと変わらない。
同居人がいなければこの部屋は静かなものだ。時々嬌声や規則正しいかつかつといった音もするが、注意を向ければすぐに消えてしまう。しかし今日は時折ごうという音が止まず、頭を押さえられているようで思わず頭を下げてしまう。
椅子の上、ソファの上、トイレのそばと落ち着くところを探す。
その度大きな音ともに窓ががたがた鳴り出し、思わず居所を変えてしまう。今日は窓から一番離れた玄関周りがいいのかもしれない。ここは包まれている感じがしないからあまり落ち着かないのだが。
うとうとしていると玄関でかちりと音がする。同居人が帰ってきたのだろう。
この落ち着いた、少ないけれども食事に事欠かない場所を離れる気持ちはよくわからないが、思わず駆け寄ってしまう。吹き付ける風に向かって同居人を見ると、足元がそぼ濡れている。頭を撫でようとしてくるのも、ガサガサした何かを手に持っているのもいつもの調子だ。
これで少しほっとする。
同居人がガサガサしたものを何やら頬張っているときに、こちらも食事にありつけるのだ。大丈夫かと声をかけると、何やら見当もつかない声を返してくるのだが、まあ大丈夫なのだろう。この同居人とコミュニケーションが取れているように思えないのだが、あちらも同じ気持ちなのだろう。
室内に暖かいものがあるという感じはいいものだ。いつでも気が向けば奴の脚の上で毛づくろいをすればよい。そう思えば外のとどろきも心持ち遠ざかるようだ。
時々爪にちょっかいをかけてきたり腹を撫でようとしてくるのは閉口だし、かたかたと指を飽きずに動かしているのは気味も悪いが、遠くに危険を望む今はこれで満足しなければならない。
さてちょっと横になろう。