衛生観念に関するある予言
西暦2020年、SARS-CoV-2(※1)による感染症が、当時グローバル化(※2)の極大にあった世界を覆った。
この感染症は感染者に高熱や臭覚・味覚の喪失をもたらし、そのせきや呼気によって感染を広げたが、ことに問題となったのは病原体保持者が無症状である、あるいは症状がでるまで時間がかかることであった。
無症状である病原体保持者にどのように対応すればよいのか?
最も有効とされた手段は、社会の構成員全てがマスク(※3)を着用するというものだった。感染者、未感染者に関わらずマスクを着用することで、今日におけるパーソナルバイオスフィアを近似的に作り出したのだ。
ここで衛生観念のパラダイムシフトが起こったとされている(※4)。例えば、当時の成人にはひげが自然に生え、地域によってはひげをたくわえることが推奨されていたが、これが禁止されるに至った。(なお当時は髪も自然に生えており、こちらの禁止については2032年のWPPGW症状拡大を待たなければならなかった。)
2040年代以前の人々を見て、ひとりひとりが異なる装飾を施していることに目まぐるしい思いをする経験は私にもある。その原因を「限界以前」の価値観に求める人々は多いが、あいまいなその表現を解きほぐせば、根本は衛生観念の欠如に求められると言える。
※1.
2019年11月に当時の中華人民共和国で発生した、SARS関連コロナウイルスに属するウイルス。当時は新型コロナウイルスと呼称された。
※2.
国家や地域を超えて社会的あるいは経済的な関係が広がる状況。世界市場の形成や世界貿易、観光が活発になり、ヒトやモノが航空、船舶便を通じてネットワークを作り上げていた。
※3.
当時のマスクは不織布によるものが多かった。
※4.
Davidson et al. Paradigm shif in hygiene. Nat Med. 2055.